パワーバランスの変化
イジメ被害は本人だけでなく、家族にも大きな影響を与える。
パワーバランスという言い方は多分聞いたことがないだろう。
パワーバランスというのは家族の中でかける愛情や時間、世話のバランスだ。
例えば親は基本的に子どもは平等に接しようと心がけている。
でも、受験の子がいれば、その子を優先的に世話しようと思うし、
新しく赤ちゃんが生まれたら、赤ちゃんの世話につきっきりになってしまう。
その場合、「優先されなかった」家族に影響が出てしまうんだ。
例えば弟や妹が生まれた時に、「お母さんを取られた!」と思ったお兄ちゃんやお姉ちゃんが赤ちゃんを叩いたり、自分も赤ちゃんのような行動をとって愛情を要求するという「赤ちゃん返り」という行動がある。
イジメの場合は普通の場合よりも大きくパワーバランスが崩れるので、その影響も大きい。
俺がイジメの現場で何度も体験したパワーバランスの変化を解説するよ。
・パワーバランスの極端な変化
イジメを受けた子が兄弟姉妹にいた場合、家族全員がその子を「守ろう!」と思い行動する。
その子がかわいそう。絶対に許せない!
家族の愛情が一気にその子に集中する。それが当然だ。
そしてイジメが解決してからも、その子の傷は残っているから
その子を守らなきゃ。みんなで傷を癒やしていかなきゃ!
家族の愛情は引き続きその子に集中する。これも仕方ないことなんだ。
お父さんやお母さんは自分の仕事をしながら、子どもの心配をして、日々疲れ切っている。
夜中にトイレで起きた時、一人で泣いているお母さんの姿を何度も見てきた。
そんな時キミは思うんだ。
「僕がしっかりしなきゃ。家族みんなを守るんだ。」
キミはなるべく両親に迷惑をかけないように、心配をかけないようにするだろう。
するとお母さんに言われるだ。
「あなたは本当に頑張ってくれるから、母さんすごく助かってるの。あの子があんな状態だからあなたにもたくさん迷惑をかけてるわよね。本当にごめんなさいね。でも、あなたは一人で何でもできるから、母さん本当に安心しているの。本当にありがとうね。」
涙ながらにこんなことを言われたキミは
「大丈夫だよ母さん。僕は大丈夫だから。」
って答えるだろう。
でも、そんなキミが、もしも一人では大丈夫じゃない状況になったらどうする?
お父さんに、お母さんに相談して心配をかけたくない。
お父さんお母さんは弟、妹のことでいっぱいいっぱいだから、僕がしっかりしなきゃ。
僕は大丈夫。一人でも大丈夫なんだ。
勉強がわからなくなって困っている時も、
好きな子にフラれて落ち込んだ時も、
学校で先生に怒られてへこんだ時も、
電車で言いがかりをつけられて、悔しい思いをした時も、
友達とケンカして悩んでいる時も、
受験で不安な時も、
キミ自身もイジメを受けるようになった時でさえも、
きっとキミはお父さんお母さんにはこう言ってしまう。
「大丈夫。僕は大丈夫だよ。」
そしてキミ自身の心にもやがて異変が起こる。
ずっとガマンしてきた、無理してきた心が悲鳴をあげる。
急に非行に走ったり、家出を繰り返したり、家族から離れようとしてしまうんだ。
そんなケースを何度も見てきた。
だから俺が相談を受けに行った親には
「その子以外の兄弟姉妹にも十分に気を配ってあげてください。『大丈夫』って判断しないでください」
ってアドバイスをしている。
こういうパワーバランスの変化が起こるのもイジメのその後の大きな特徴だ。
・離婚、家庭崩壊
パワーバランスの変化が起こるのは兄弟だけとは限らない。
ほとんどの場合、お母さんとその子の関係が強くなってしまうから、それ以外の兄弟、お父さんは自分に対して「ガマン」を強いられることになる。
お父さんは大人で、親でもあるからもっと耐える。耐えて耐えて耐え続ける。子どもは「もっと辛かったんだ」って思いながら。
お母さんはずっとその子の側にいて面倒を見ている。
お父さんが何か少しでも力になろうと声をかけると
「あなたは何も分かってないんだから口を出さないで」
と言われる。
お母さんもいっぱいいっぱいなんだ。
そんな状態が続いて、心に無理がきて、急に家に帰らなくなってしまったり、離婚してしまうことがある。
「イジメ」って一言で言うけど、これだけの影響を俺は見てきた。
イジメの行為自体が罰せられない今の現状では、こういう「イジメのその後」のことなんて誰も補償してくれない。
でも、どう考えても「イジメのせいで」家族が壊れていっているんだ。
この事実をもっと多くの人に知ってもらいたい。
そんな想いで俺はこのサイトを作った。
本当にイジメはひどい。ひどすぎる。
・パワーバランスを取り戻す
こう言ったパワーバランスの変化に今のところ教育現場も学者達も気付いていない。
(気付いていても大きく取り扱ってはいない)
俺は通信制高校の教師としてイジメを受けた生徒、親と何度も話して相談して、心療内科に通う生徒と一緒に病院に行ってお医者さんに「先生として何ができますか?」って聞いて、悪戦苦闘しながらその子たちをもう一度社会へ送り出してきた。もっと生徒の力になれると思って教育カウンセラーの資格も取った。
その後、家庭教師として部屋から出てこられない生徒たちをたくさん見てきた。
実際、学校に行けない子たちが取れる手段は